連載第1回

がんばれ!同窓生~次世代へ贈る言葉~

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出来ない理由を探すより、出来る方法を探すこと!

社会科学部は2016年に学部創設50周年を迎えます。これまでにすでに3万有余の卒業生を世に送り出しています。社会の壁と悪戦苦闘を繰り広げた勇者たち、荒波をものともせずに乗り越えていった若者たち、そして今でも先頭を走り続ける仲間たち。今回の企画『がんばれ!同窓生』では、各界でご活躍、ご奮闘されている同窓生から直接お話しを伺い、多くの同胞、特に若者たちに向けてメッセージをいただきます。

第1回はメルセデス・ベンツ日本株式会社 代表取締役社長兼CEOの上野金太郎さんからお話を伺いました。上野さんは、早稲田実業を経て、1987年(昭和62年)に早稲田大学社会科学部を卒業されました。六本木のミッドタウンにほど近いショールームで、学生時代の思い出や仕事にかける想いなどをお伺いしました。(文責:伏見英敏 取材:2014年6月)

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乗用車営業部からスタート!

阿川:今日は、上野さんの学生時代のお話や、就職されてから今日までのお話などをお聞きしたいと思います。

上野:学生時代は、学校周辺には良く行ったのですが、教室にたどり着く前に悪友につかまっていたものですから、ご期待に添えるかどうか・・・(笑)
昨年、20数年振りに早稲田に行き、校友会の方にキャンパスを案内していただく機会がありましたが、立派なビルが立ち並んでいて驚きました。

阿川:早稲田の風景もずいぶん変わりましたね。

上野:私は87年(昭和62年)の卒業ですが、会社は前の年に設立されたばかりで30名くらいの規模でした。
初めの10年くらいは、本当にバタバタな状態で、会社の規模も急激に大きくなって、社員数も10倍、15倍と増えていきました。クライスラーとの合併や解消などもあって、プライベートな時間があまりなくて、会社中心に生活がまわっていました。

阿川:メルセデス・ベンツ日本が設立されてからは、輸入はすべて御社ですか。

上野:そうですね。86年に輸入権を獲得して、正式に色々と始まったのが87年でしたので、私が入社して間もないころです。
インフラもまだ整ってない状態で始まって、最初に配属されたのは乗用車営業部というところでした。発注から輸入、通関、卸売、車の部品など一連の仕事は全部にかかわってました。仕事の原型は変わってないので、会社の動きは理解できていると思います。

阿川:注文乗用車のようなものが今でもあるんですか。

上野:日本ではほとんどのオプションが付いていますので、在庫販売が基本ですね。ただ、今でも稀に注文があります。まさにこの部屋にAMGと看板が掛けてありますが、これがメルセデス・ベンツの中で発注して作れるハイパフォーマンスな車種です。エンジニアが独立してレースに出たことがきっかけとなって、このブランドを育てていって、扉が屋根の上まで上がるものとかスポーティな車を作ってきたのですね。日本ではどういうわけか「アーマーゲー」と呼ばれて親しまれてますね(笑)

アメリカンスクールから早実へ

阿川:大学時代はどんなことを中心にされていたんですか。

上野:小中とアメリカンスクールに通っていまして、中学生の頃にレーシングカートに熱中し、レースにも出ていたんです。ある方の助言もあって中学3年の時に日本の学校に転校したんですが、モータースポーツにはかかわっていきたいなとずっと思っていました。高校に入ってからもオートバイや車の免許はいち早く取得して・・・。
そういうバッググラウンドがあったので、高校・大学時代は、クルマの雑誌の編集とかクルマ関連の業界でアルバイトをしていました。一応大学にも顔を出していて、試験を受けてレポートもちゃんと出してなんとか4年で卒業できましたよ(笑)私にとっては、社学はとても理想的で、当時極端に朝早い授業もなかったし、バランスのとれた時間帯に授業が受けられたという感じがします。

阿川:アメリカンスクールに入られたきっかけは。

上野:外資系企業から独立して事業をしていた父が仕事上で一番苦労したのが言葉だったと感じていたからだったと思います。

阿川:ではメルセデス・ベンツに入社されても言葉ではあまりご苦労されなかったんではないですか。

上野:そうですね・・・でも基礎はできていたんでしょうけれど、中学生までの英語とビジネス英語では結構ギャップはありましたね。

阿川:大学時代はゼミは取ってましたか。

上野:古川先生のゼミに入ってました。ただ、先程も言いましたが、学校には良く顔を出していたのですが下から(早実)の悪友たちがこのくらいの時間には来るはずだと網を張って待っているもんですから、教室までなかなかたどり着けなかったですね。
ゼミの授業で面白いなと思ったのは、日本経済、特に自動車産業の国内空洞化についてで、卒論でも書きました。

阿川:卒業の87年当時は、日本経済が沸いていた時期だと思いますが、産業の空洞化について予測されていた人は少ないんじゃないですか。

上野:予測というか、高校・大学とクルマの雑誌などに携わっていて、海外でそういう現象が起き始めていたのを見聞きしていましたから、これはもしかしたら日本でもと。

阿川:なるほど。学生時代にスポーツは何かやってたんですか。

上野:中学までは当時一番はやっていたバスケットボールを。高校に入ってからは、周囲のみんなが心配する通り、オートバイで足の骨を折ってしまって、それ以来本格的なスポーツはやってません。
逆に20数年間の沈黙を破って今、トライアスロンに挑戦しています。3~4年前まで今より12~3キロ太っていたんですが、おかげさまで健康診断の結果も全て良くなってきていいことづくめですね。

阿川:87年卒業ですともうすぐ50代ですね。

上野:今年50歳です。海外出張が今でも年間14~5回、国内も合わせると1年の半分以上家にいなくて全部外食なので健康管理しようと心がけています。

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若い人にはいろいろな経験を

阿川:今、御社に入ってくる若い人はどんな人が多いですか。

上野:弊社では例年、新卒の学生を4~8名ほど採用しているんですが、内定が出てから入社までの間の心がけみたいなものはないかと聞かれるんですね。あんまり勉強していなかった私が言うのも変ですが、何しろ大学にいるうちは勉強しなさいよと(笑)外国人の感覚では大学の時に何を学んだのかというのが一番先に飛んでくる質問です。『私は社会科学』と言ったらなんでこの会社で働いているんだと言われました。日本の場合は、その辺が少し外国とは違うと思いますが。

弊社の場合新卒入社の人は、会社に対するロイヤルティが高いと思います。1年に4~8名しか採用しないので、結構狭き門なのかもしれませんが、皆、語学が達者で、とても元気で礼儀正しいです。弊社の若い人たちは、就職難の時代を戦いぬいてきているので、世の中が悪いとかボヤク人もいないですし、意見もはっきり言いますね。

阿川:素晴らしい人材ですね。しかし今までなかったような現場に出くわした時にちゃんと乗り超えられる野性味のようなものはどうですか。

上野:そうですね、実はそれを私は一番懸念していて、あえてそういう状況を作らせようと考えています。ですから新卒入社の人たちは、2~3年で部署がえします。私自身が次から次へといろいろな部署を経験させられましたクチなので、自分が今何をやっているのかということを体感させ、苦しいことも悲しい思いもしながらやっていく状況が待っているということをちゃんと認識してほしいと思っています。
たとえばここは、車の試乗は出来ますが、車を売らないショールームなんです。そこでレストランやカフェの経営や、人の流れなども覚えてもらう。これを技術系の人にいきなりやらせてみることもあります。『音をあげてもいいから、出来ることをやってみろ』というふうに立ち上げたのですが、見事に成功したので2店舗目も立ち上げました。
でもその人は、ここから引きあげて、今度は全国の営業関連をやらせています。せっかくここまでやったのに何故と思ったかもしれませんが、会社を色々な角度から見てほしいと思っています。そういうチャレンジを見て周りの人間が「俺もやらなきゃ」というふうに手を挙げる人たちが出てきます。私たちもチャレンジャーには成功してほしいので、色々と檄も飛ばしますが、しっかりサポートしていきます。

阿川:厳しいやり方で、若い人は残りますか。

上野:最近は残りますね。今のマネージャーの半数以上が新卒採用の人材です。そういう人たちが後輩に色々と伝えていってくれていると思います。また逆にマネージャーレベルでも次の世代がすごい勢いで伸びてきているので、オタオタしていられないという雰囲気はあります。

阿川:プロパーで社長になられたのは、上野さんが初めてですか。

上野:そうなんです。たまたま前任社長が中国社に異動になる際に私を後任に推してくれたのです。車の販売の営業成績も認められたとは思いますが、まだ2年もたってないので、私自身が今、歯を食いしばって頑張らなければと感じているところです。

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レトロと最先端のバランスに注力

阿川:若くして社長になられたわけですが、これからどんな構想をお持ちですか。

上野:私は、メルセデス・ベンツというブランドは、結構知れ渡っていると勝手に思っていますが、その中で今までどおりのことをやっていては飽きられてしまう。とは言え今までのお客様にもいかに末永くファンでいてもらうかということも同時に考えていかなくちゃいけない。輸入卸元の会社なのですがマーケティングの会社で、最近も新しい車とスーパーマリオをリンクさせてマーケティングしました。お時間があればネット検索してご覧になって見て下さい。(コンパクトSUV「新型GLAクラス」と往年の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」とのコラボCMが見られます。)
変わらないレトロなものと常に最先端でいかなくちゃいけないもののバランスを私たちなりに考えてやっています。また『メルセデス・ベンツ もっとも愛されるブランドへ』というカンパニービジョンを掲げているのですが、お客様に勧めるためにはまず、社員のみんなにこのブランドを好きになってもらいたいと思っています。

阿川:色々な部署をご経験されたということですが、私の知り合いの上場企業の会長も、若いころはほぼ1年ごとに部署が変えられて、ほとんどの現場を見たと言ってます。

上野:私は、いろんな経験を積む機会と人に恵まれてきたと言えます。社長室長の時代に突然、商用車の部門に変えられたこともありました。非常に厳しいビジネス環境の中で必死に建て直しに駆け回りました。
国産4強にはなかなかかなわない。それでも当初年間200台くらいだった販売台数を500台、700台と上げてきて、さあこれからだなと言う頃に今度は商用車部門の切り離しがあるわけです。まだ30代でしたがビジネスパートナーの社長さんのところや今までのお客様のところに説明に駆け回ったり、大変な思いもしました。その時に虚勢を張る必要もないですがひるんでいてはダメだなと思いました。

阿川:そういう経験や出会いを重ねた上野さんの経営哲学とは。

上野:端的に言うと『出来ない理由を探すより、出来る方法を探すこと』ではないでしょうか。確かにそうだよなと納得させられるエクスキューズもあるんですが、そんなことに時間を費やすより、売れる方法を考えようということです。
うちの社員にも良く言うんですが『権利を主張する前に義務を果たせ』と。しかし最近は『権利を与えたほうがより義務も果たす』という感じもします。私はあまり義務を果たしてなかったんですが、いろんなことを経験させてもらったというのは、これまでの社長たちのおかげですし、それにこたえなくちゃと思ってやっぱり努力したんだと思います。
奨学金の活動も有為な若者にチャンスを与えるというのが大事なことだと思いますが、今の私にとって弊社の若い人たちにチャンスを与えることが大きな役割だと思っています。

遠慮せず自分の意見を披瀝してほしい

阿川:これまで早稲田で良かったなと思うことはありますか。

上野:たまたまかもしれませんが、早稲田出身の人は会う人会う人とてもザックバランな方が多くて、人当たりが良いけどベタベタしない良さがありますね。私は早稲田実業OBとも長い付き合いがあって、とても楽しい関係を続けてますが遊びと仕事はみんなきちんと分けてますね。
それから先日、他学部の先生とお話をする機会があったのですが、早実にお世話になっている家の二人の息子の話になったんです。その時『是非、うちの学部に来てください。でも最近は社学の方が人気ありますよねぇ・・・』とおっしゃってました。実際に今の社学の学生が優秀になってきたというのは誇らしいですね。
 私らの時は、なんとかしてしがみついてでも早稲田に入りたいという人間が多かったし、とてもおおらかな学部でしたよね。そのおおらかさで卒業させてもらったんですが・・・(笑)

阿川:これからの学生さんはグローバルな社会に巣立っていく必要が出てくると思いますが、それこそグローバル企業の社長を務められている上野さんから社学の学生に贈るメッセージをお願いします。

上野:私も自分の人生の中で反省していることの一つなんですが、変な遠慮はしちゃいけないと思います。常識的なことはともかくとして、つまらない遠慮はするべきではなく、ちゃんとした理由をもって自分のしたいことを伝えるというのは大切なことだと思います。微妙ではありますが勘違いでは困りますが、自分の立脚点が理解できていれば遠慮せずに意見を言って頑張ってほしいと思います。

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プロフィール

1964年東京都生まれ、早稲田実業学校商業科、早稲田大学社会科学部卒業。
1987年大学卒業後、前年にダイムラー・ベンツAG(当時)日本法人として設立されたメルセデス・ベンツ日本へ新卒採用1期生で入社。乗用車営業部、広報部、ドイツ本社勤務、企業広報部長、社長室長、2003年に取締役(商用車部門担当)就任、2005年から販売店ネットワーク開発担当役員兼人事・総務ディレクター、2007年6月1日に副社長(メルセデス・カーグループ営業/マーケティング部門担当)。
2012年12月1日付でメルセデス・ベンツ日本代表取締役社長兼CEO就任。

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