連載第8回

がんばれ!同窓生~次世代へ贈る言葉~

今回お話を伺った卒業生は今野正裕さん。社会科学部卒業後、医学部に入り直し、現在、脳神経内科の医師として勤務しています。、我々取材班が近代的で清新なビルに到着すると、穏やかで明るい笑顔の若者が出迎えてくれました。

●将来は医者になるという漠然とした思いが

──はじめに子供の頃についてお聞かせください。
今野 住んでいた地域にある、公立の小学校と中学校に通っていました。放課後や休日は同級生と遊んだりと、特にストレスなく楽しく日々を送っていました。

──高校時代はどんな感じでしたか。
今野 自由な校風だったので、将来のことを考える時間が沢山ありました。なので、世の中にある仕事を調べて、自分が今後どう生きていこうかを模索していました。

──医師になるお考えは高校の頃からあったのですか。
今野 子供の頃から将来医者になりたいと漠然と思っていました。しかし恥ずかしながら私は子供の頃、医者くらいしか職業を知らなかったんです。年齢が上がるに連れて、世に色々な仕事があることがわかり、多方面に関心が出てきました。職業の知識や興味が増えていく一方、必ずしも医師にならなくても良いのではないかと思うようになってしまいました。

──ご両親からの期待やアドバイスは。
今野 両親は私の意思を尊重していたので、何かを強いられることはなかったです。

──自分で自分の道を開拓しなさいというようなスタンスですね。
今野 そうですね、やりたいことをやりなさいと言われていました。

── 16 ~ 18 才頃といえば明確な目標があればともかく、何をやっていいかわからない年頃じゃないですかね。
今野 おっしゃるとおりだと思います。職業を色々調べたとはいえ、実際その仕事で働いている方のお話を聞いたわけではなかったので、具体的なイメージが沸きませんでした。なので、大学は幅広い知識や見聞が習得出来る環境に行き、そこで得たものを元に将来の仕事を決めようと思っていました。

──いろいろ調べた中で、何か気になったものはありましたか。
今野 医者になりたいと思っていたからなのか、製薬会社のMRには興味がありました。

──そういう意味で理系の大学に進むという選択肢はなかったのですか?
今野 まわりは文系がたぶん7割くらいで、ちょっとその流れに乗ってしまったところもありますね。

●暗中模索の中、自由度の高い社学を
──大学進学に際して社会科学部を選んだ理由はなんですか。
今野 高校の時点で希望の職業が見つかっていなかったので、幅広い知識を習得出来る環境に身を置きたかったからです。そこで将来のヒントを見つけたいと思っていました。早稲⽥⼤学では全国から集まった多様な経歴の学⽣と出会え、⾃分の世界観が広がったような感覚を持ったことを今でも覚えています。中でも社会科学部は最も多様な学⽣が集まっていることや、科⽬選択の⾃由度が⾼く、いろいろな概念に触れることができて⽇々退屈せず過ごせました。また講義後によく友⼈2~3⼈で集まり、「半兵衛」という超リーズナブルな居酒屋で飲んだり、ボウリングやダーツ、⿇雀をして遊んでいました。

──早稲田の空気って特別な何かがあるんですかね。
今野 出身地が全国に散らばっていたり、大検経由で入学した人がいたり、3浪とか4浪の人がいたりで、高校までは基本的に同じような地域でほぼ同い年の人たちの集まりですが、早稲田の多くの同級生は年齢も出身地も違い、いろんな人間がいるところが面白いなと思いました。

──すでに私らの時にでも勤労学生は少なかったと思いますが、社学の草創期には、きちんと仕事もやって大学に通う優秀な方々も多かったと思います。社学の私たちのまわりには、とにかく早稲田という人間が多いので、そうすると3浪4浪も結構いたし、どこかの大学を卒業してから早稲田に入り直すという方もいましたね。そういう意味でいうと……何というのかな、すでにかなりダイバーシティが入っていたのかもしれません。(笑)ところで、学生時代はどんなゼミに進まれたのですか。
今野 労働法の清水ゼミというところです。社学稲門会にはゼミの先輩の小梛さんにお誘いしていただきました。(小梛さん、ナイスアシスト!※広報委員)

●3年の夏を転機に医学部受験で予備校へ
──大学に入ってからの転機というのはありましたか。
今野 3年の夏頃、社学の同級生が亡くなりました。その時に以前から本当は目指したかった医師という仕事への想いが再燃しました。早稲田には医学部がないので気持ちが遠ざかっていたのですが、友人の死という非常に悲しい出来事が心に火をつけてくれたのです。就職活動の始まるタイミングで改めて考え直してみて、遠回りになるけど医師を目指そうと決意しました。

──もともと潜在的に持っていた本当の気持ちが表面化してきたのですね。
今野 そうですね。自分の気持ちに正直になって医師を目指してもいいんじゃないかなと思い始めました。

──決意してから 1 年と少しだと思いますが、受験準備期間が短かったですね。
今野 決意した後にあまり悩まず、医学部受験予備校に入ったりしたのがよかったのかもしれません。ただ理系の勉強は最初とっつきにくく非常につらかったですね。頑張っているうちに次第に未知の分野を知ることの充実感を持てるようになりました。

──医学部に入った時に早稲田での生活とどんなギャップを感じましたか。
今野 社学は1学年 600 人くらい入ると思いますが、医学部では 100 人程度です。社学は科目が多様でほとんど選択科目、必修はあまりなかったですね。同級生だけど違う授業をうけたり、むしろ先輩と同じ教室にいたりということが当たり前でした。そういったところでも人の交流が結構生まれて楽しかったなと思います。医学部というのは1限から5限までびっしり全部必修という感じだったので、ある意味ちょっと高校の授業の延長のような感じもしました。そんなところにまずギャップみたいものを感じました。それから社学の勉強だと、ひとつのことを積み上げる勉強というよりは幅広くという形ですが、医学部は1年から6年まで勉強して国家試験を受けるので積み上げ型の勉強をしたという違いがありましたね。

●神経科と混同されがちな脳神経内科を
──その中で医学部の学生時代から何科に進むかという方針は決めていたのですか。
今野 全然決めていなくて、専門は研修医の時期に一番興味のあった分野を選びました。初期研修ではいろんな科を、たとえば4月は内科で5月は皮膚科みたいな感じで回るんです。そういう風にローテーションして興味ある科を探したうえで今の脳神経内科という専門分野に決めました。

──脳神経外科は時々見かけますが、脳神経内科の方は普通の病院にはあまりない科ですね。
今野 はい、割とよく精神科と混同されがちなところはあります。私は⼀般内科全般と脳神経内科をやっています。在宅医療も時折やっています。脳神経内科はあまり馴染みがないかもしれませんが、脳梗塞やパーキンソン病など、脳〜脊髄〜末梢神経〜筋⾁の病気を扱う科です。まだまだ未熟者ですが、どこの病院に⾏っても適切な診断をされなかった患者様を診断し治療がうまくいった時は、医師をやっていて良かったと思います。今後更に勉強し経験を積み、地域の⽅々の⽣活をより良く出来るよう貢献できたらよいなと思っています。

──脳梗塞といってもドカンとくるものだけではなくて、プチ脳梗塞もあると聞きます。無自覚のものも多いようで、そういったことが原因で体調不良を引き起こすなどということもあるのでしょうか。
今野 俗にいう「隠れ脳梗塞」というものですかね。どんな病気もそうなんですが症状がなければ基本的には治療はしません。脳梗塞であればそれなりのリスクが背景にあるので、たとえば動脈硬化につながりやすい喫煙であったり、高血圧や糖尿病とかそういった危険信号はあるのですが、「隠れ脳梗塞」の場合、治療介入はしないです。まず生活習慣の指導を行います。

──私も一度診てもらって指導を受けに行こうかな。
今野 私でよろしければ、どうぞどうぞ。(笑)(頼りになる先生が見つかりました!※広報委員)

●「自分には嘘をついてはいけない」
──最後に社学の学生や若い卒業生にメッセージをいただけますか。
今野 本当にやりたいという想いには忠実に従ってもいいんじゃないかなと思います。昔、何かの本で読んだのですが「仮に⼈に嘘をついても⾃分には嘘をついてはいけない」という言葉があります。⾃分が⼼から切望していることには、仮にハードルが⾼くてもチャレンジするべきだと思います。そうでないと、釈然としない気持ちを⼀⽣持ち続けます。⾃分が本気で達成したいことを実⾏する時、そのモチベーションが多⼤な集中⼒につながり、きっと良い結果につながると思います。

●あとがきにかえて──社学から医者の道へ
「早稲田に医学部を」という声が昔から根強くあります。慶應が歯科大学を傘下に置くというニュースや新型コロナウィルスの感染拡大は、「医学部待望論」に拍車をかけるかもしれません。今回、その是非には触れませんが、今野さんのお話には勇気づけられる人も多いのではないでしょうか。紙面では十分にお伝えできませんが、就活をする友人たちを横目に医学部受験勉強をし、さらに6年間の学業生活を選択するにあたっては、かなりの葛藤もあったことかと思います。今野さんからは、新たな世界に飛び込む「勇気」と「信念」そしてそれらを支える「熱量」を感じました。社学の卒業生の中には他にもたくさんの方々が新たなチャレンジに取り組んでいると思いますが、多様性の中から生まれる化学変化が期待できる学部に成長していくのではないでしょう
か。

●今野 正裕さんプロフィール
脳神経内科医として、認知症、脳梗塞、パーキンソン病、末梢神経疾患などを日々診療しています。一般内科医として、高血圧や糖尿病なども診ています。日々勉強ですが充実した生活を送っています。
先輩に誘って頂いた早稲田駅伝に参加して以降、走ることが好きになり、休日はジムでよく走っています。他は料理や、日本酒飲み比べなどが好きです。

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