連載第1回
メルセデス・ベンツ日本株式会社 
代表取締役社長兼CEO 上野 金太郎さん

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●レトロと最先端のバランスに注力

阿川:若くして社長になられたわけですが、これからどんな構想をお持ちですか。

上野:私は、メルセデス・ベンツというブランドは、結構知れ渡っていると勝手に思っていますが、その中で今までどおりのことをやっていては飽きられてしまう。とは言え今までのお客様にもいかに末永くファンでいてもらうかということも同時に考えていかなくちゃいけない。輸入卸元の会社なのですがマーケティングの会社で、最近も新しい車とスーパーマリオをリンクさせてマーケティングしました。お時間があればネット検索してご覧になって見て下さい。(コンパクトSUV「新型GLAクラス」と往年の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」とのコラボCMが見られます。)
変わらないレトロなものと常に最先端でいかなくちゃいけないもののバランスを私たちなりに考えてやっています。また『メルセデス・ベンツ もっとも愛されるブランドへ』というカンパニービジョンを掲げているのですが、お客様に勧めるためにはまず、社員のみんなにこのブランドを好きになってもらいたいと思っています。

阿川:色々な部署をご経験されたということですが、私の知り合いの上場企業の会長も、若いころはほぼ1年ごとに部署が変えられて、ほとんどの現場を見たと言ってます。

上野:私は、いろんな経験を積む機会と人に恵まれてきたと言えます。社長室長の時代に突然、商用車の部門に変えられたこともありました。非常に厳しいビジネス環境の中で必死に建て直しに駆け回りました。
国産4強にはなかなかかなわない。それでも当初年間200台くらいだった販売台数を500台、700台と上げてきて、さあこれからだなと言う頃に今度は商用車部門の切り離しがあるわけです。まだ30代でしたがビジネスパートナーの社長さんのところや今までのお客様のところに説明に駆け回ったり、大変な思いもしました。その時に虚勢を張る必要もないですがひるんでいてはダメだなと思いました。

阿川:そういう経験や出会いを重ねた上野さんの経営哲学とは。

上野:端的に言うと『出来ない理由を探すより、出来る方法を探すこと』ではないでしょうか。確かにそうだよなと納得させられるエクスキューズもあるんですが、そんなことに時間を費やすより、売れる方法を考えようということです。
うちの社員にも良く言うんですが『権利を主張する前に義務を果たせ』と。しかし最近は『権利を与えたほうがより義務も果たす』という感じもします。私はあまり義務を果たしてなかったんですが、いろんなことを経験させてもらったというのは、これまでの社長たちのおかげですし、それにこたえなくちゃと思ってやっぱり努力したんだと思います。
奨学金の活動も有為な若者にチャンスを与えるというのが大事なことだと思いますが、今の私にとって弊社の若い人たちにチャンスを与えることが大きな役割だと思っています。

●遠慮せず自分の意見を披瀝してほしい

阿川:これまで早稲田で良かったなと思うことはありますか。

上野:たまたまかもしれませんが、早稲田出身の人は会う人会う人とてもザックバランな方が多くて、人当たりが良いけどベタベタしない良さがありますね。私は早稲田実業OBとも長い付き合いがあって、とても楽しい関係を続けてますが遊びと仕事はみんなきちんと分けてますね。
それから先日、他学部の先生とお話をする機会があったのですが、早実にお世話になっている家の二人の息子の話になったんです。その時『是非、うちの学部に来てください。でも最近は社学の方が人気ありますよねぇ・・・』とおっしゃってました。実際に今の社学の学生が優秀になってきたというのは誇らしいですね。
 私らの時は、なんとかしてしがみついてでも早稲田に入りたいという人間が多かったし、とてもおおらかな学部でしたよね。そのおおらかさで卒業させてもらったんですが・・・(笑)

阿川:これからの学生さんはグローバルな社会に巣立っていく必要が出てくると思いますが、それこそグローバル企業の社長を務められている上野さんから社学の学生に贈るメッセージをお願いします。

上野:私も自分の人生の中で反省していることの一つなんですが、変な遠慮はしちゃいけないと思います。常識的なことはともかくとして、つまらない遠慮はするべきではなく、ちゃんとした理由をもって自分のしたいことを伝えるというのは大切なことだと思います。微妙ではありますが勘違いでは困りますが、自分の立脚点が理解できていれば遠慮せずに意見を言って頑張ってほしいと思います。