50周年記念シンポジウムのご報告

 

 

社会科学部稲門会 幹事長
伊東相一(1974年)

「社会科学部の理念と歩み」

 日時:11月25日(水)13:00~16:15
会場:早稲田大学国際会議場(井深記念会館)

  • 1部基調講演(13001430)

ご挨拶 ;西原博史 社会科学総合学術院長
(要旨)
社会科学部は、門戸解放、社会科学の総合的教育・研究を2本柱として1966年に設立され、2016年で創立50周年を迎えます。

現在の社会科学部は、学際性(多様な知の対話志向)、臨床性(現実社会の問題解決志向)、国際性(地球規模の問題志向)という方法論を、社会科学総合の教育・研究の場として位置づけています。来年2016年4月には先端社会科学研究所が設立されます。

社会科学部は、昼間学部に転換したことで人気が高まり受験難易度も上がりました。一方で昼夜開講大学院は設けたものの、夜間の門戸を閉ざしてしまったことにより学部の特性であった勤労学生が減少してしまいました。また地方出身の学生数の減少も大きな課題です。今後も学生と卒業生が交流する仕組みの中で、卒業生の皆さんには学生への多方面にわたる支援を引き続きお願いしたいと思います。

 

東條 隆進 名誉教授  ―良い社会をめざすためにー
(要旨)
1992年~2013年まで、学部で「経済社会学と経済思想史」を講義していました。経済思想史は経済学部の主要な科目(経済学史)に属していますが、「経済社会学」は主要大学の経済学部や社会学部の講座にはありませんでした。経済学は経済学部にあり、社会学は社会学部にあったのです。経済社会学は、社会科学部にしか設置されえない科目であったと考えます。日本の大学で「社会科学<Social Sciences>を大学の学部の名称にしたのは、早稲田大学が最初です。これは17世紀のイギリスで始まった市民社会の形成過程で成立した学門体系です。明治国家体制は、脱亜入欧のスローガンのもと富国強兵を国家理念としましたが「良い社会とは何か」という問いは立てられませんでした。ヨーロッパにおいては良い社会とは「市民社会=Civil Society」であるということでしたが、この理念は日本では存在しようがなかったのです。本来早稲田大学にこそ日本に市民社会を建設する使命があるべきであったと思いますが、ようやく社会科学部が設置されたのは1966年になってからのことです。

こうして社会科学部に設置された「経済社会学」という講座がイギリスに始まった「市民社会」の研究を開始し、日本における「封建体制から市民社会へ」向かうべき方向を探求することになりました。封建体制から資本主義ではなく、封建体制から市民社会への道の探求です。良い社会は「福祉国家、民主主義、市場経済調和」として成立しますがそれは市民社会の展開過程においてのみです。福祉国家も民主主義も企業主義も市民社会という社会的苗床においてのみ成長すると考えます。

 

田村 正勝 名誉教授  ―社会科学の学際性と総合化―
(要旨)
グローバリゼーションやリージョナリゼーションが加速する現代社会や環境問題に代表されるような地球規模の課題を、社会科学の新しい総合的学際的な視点で解決できる研究者を養成すると同時に、高度な専門知識を有する実務家を養成するという目標を掲げています。学部卒の方のほかに、昼夜開講制を採ることで実務に携わる社会人を始めとし、外国人留学生の方を積極的に受け入れていく仕組みが整えられています。また多岐にわたる専門家たる研究者からの研究指導を行うことや、社会人としての経験・実践と研究・教育の成果を互いフィードバックさせることで、実務的な能力を備えた専門家を育成することを目指しています。

合理主義の考察としてロゴス(悟性)とセンス(感性)=インテリジェンス(総合的直観)による認識(臨床・経験)で、当為(あるべき論)と事実(である論)の本質を見極める。
二分法思考で、「善と悪、精神と肉体、右派と左派、個と全体、現実と幻想、自由と平等保守と革新、私と公」の追究。形而上についての問い=哲学、形而下(現象)についての問い=経験科学の追究。
社会科学の総合化とは<人文科学> <自然科学> <社会科学・社会諸科学 Social  Sciences>の総合化。

 

常田 稔 名誉教授  -落第生の社会科学―
(要旨)
経営科学(Management Science)マネジメント(経営)を自然科学の方法によって研究。
マネジメントは人間の集団においてその集団としての目的をよりよく達成するための意思決定企業経営に限らず、社会のあらゆる集団に普遍的に存在する。

研究対象は、社会科学の中にある。
研究方法は、自然科学の中にある。
興味の対象は、集団のマネジメントとしての意思決定よりも、人間の個としての意思決定にある。意思決定のあるべき姿を研究する意思決定のベキ論はマネジメントには有用だが、自分には興味のない理論、自分は人間としてどのように意思決定するのか、そして、それは何故かという人間の意思決定のありのままの姿を知りたい。社会科学の優等生から、『そんなことを知って、何になる?それが社会の役に立つのか?』という疑問の声がある。落第生である自分は、『知らん。もしかしたら、何かの役に立つことがあるかもね』と答える。『そんな研究をしても何の価値もないじゃないか』と優等生は批判する。

『社会に役立つ学問こそ真に価値のある学問である。』との信念(信仰)が多くの(社会科学系の)人々にはあると社会科学の落第生の自分は思うのであるが、価値は(良い)として承認し、実現す(べき)もの。

社会科学は当為(べき)命題によって理論を構築する必要がある。(ベキ論)。では社会科学は当為だけで成立する学問であろうか?社会における事実を前提にしなければ、社会科学は成立しえないことは明らかである。社会科学は、事実(である)と当為(ベキ)の双方を取り扱う科学である。事実認識と価値判断を峻別することが社会科学における価値自由の意味であると落第生の自分は思う。

真に優等生の社会科学は自然科学からも数学からも文学からも芸術からも自由な、社会科学の学徒としての共通動因である社会の維持、発展に資するという価値観を基盤にして構築すべき

学問体系。社会科学部の発展のためには、社会科学部の教員、職員、学生の共通動因であるべき価値観を具体的に確立することが必要であると落第生の自分は思うのである。

 

  • 2部パネル  ディスカッション(14451615
    「社会科学の研究・教育の今後  ~学際的・臨床的・国際的アプローチ」

<登壇者>
横野 恵 准教授・医事法
北村 能寛 教授・国際金融論
池谷 知明 教授・政治学
東條 隆進 名誉教授
田村 正勝 名誉教授
常田 稔 名誉教授

 

50周年シンポジウムの感想
社会科学部稲門会 幹事長 伊東相一(1974年卒)

50周年記念事業第1弾として、『大なる使命。確認せよ』という命題で講演会とシンポジウムが行われた。第1部では勇退された名誉教授の講演、第2部では名誉教授と現役教員を含んだパネルデスカッションという形式で、社学の激動する50周年の歴史を回顧し、社学や早稲田大学がどんな課題に取り組んできたのか、これからどのように取り組んでいくべきなのかを議論。

あいにく11月25日(水)が平日ということもあり、社学稲門会からの参加者は10名であったが、教職員・学生も含めて180名ほどの盛況な講演会だった。学生には、授業と同様になる出席券の仕組みを導入していた。

(感想)

  1. 最近の学生は、早慶戦等にもあまり行かないという話を耳にしていたが、校歌2番にある(大なる使命)の一節を知らない学生が今回の事前のアンケートによると50%という事実には驚かされた。
  2. シンポジウム(パネルデスカッション)を企画するには、司会者が重要ということを再認識した。今回の司会者は早田 宰教授(居住環境論)で、議論は円滑に進行されていた。
  3. 名誉教授はそれぞれに持ち味を発揮した30分の講演をされた。特に常田先生の「落第生の社会科学」は切り口も面白く、新鮮な講演であった。(注:優等生は田村正勝先生)

一方、現役の教授陣は、これから更に経験をつんで社学をリードし、今後立派な指導者・研究者になって頂きたいと切に思う。

常田先生が言われた、社会科学部の発展のためには、社会科学部の教員、職員、学生の共通動因であるべき価値観を具体的に確立することが必要であると強く思った。学生もしっかりと社会科学とは何かを共通言語で語れるように成長してほしい。

 

<2016年4月 先端社会科学研究所設立>
50周年記念事業第2弾は、先端社会科学研究所開設に際して、2016年4月23日(土)大隈小講堂において国際シンポジウムが予定されています。国際化に力を入れている最新の社会科学部の現状に焦点をあて、アジアのリーディングユニバーシテイーとしての早稲田大学のあるべき姿を考えるというイベントです。中国・韓国・ベトナムなどから有識者2~3名を招待する計画です。(同時通訳あり)

更なる社会科学部の発展を目ざし、国際シンポジウムへのご参加を宜しくお願い申し上げます。