連載第2回

がんばれ!同窓生~次世代へ贈る言葉~

私たちが普段何気なく見ているテレビCM、コンサートや公演のシーンには、登場人物以外にも思いもよらないくらいたくさんの人たちの努力が結集されています。振付家も陰の大きな立役者。私たち世代だとラッキィ池田さんはじめ何人か名前が出てきます。わが同窓生の香瑠鼓さんも振付家・アーティストとしてご活躍され、今も最前線でがんばっています。香瑠鼓さんの実績を見聞きすると、『あ~っ!』とおもわず膝を打って『あれも!』と納得してしまいます。今回は、シャガールの会の林由紀さんのご紹介で、香瑠鼓さんの事務所のある下北沢に行ってきました。インタビューは、シャガールの会代表の馬場孝子さん。早稲田大学時代のことやこれから取り組んでいくことなどについて伺いました。

~オリジナルな活動を求めて~

馬場さん
はじめまして、社学稲門会の馬場です。早速ですが早稲田大学時代の思い出話などをお聞きしたいと思います。香瑠鼓さんは、どんな風な学生時代をお過ごしでしたか?

香瑠鼓さん
じつはあんまり学校には行かなかったんです・・・。早稲田のイメージって、みんな自立していて、自分の考えのもとに好きなことをやるものだと思っていたんですが、入ってみてちょっと違うかなと思ったんです。もっと主体的に活動したいと思い、自分のオリジナルな活動を求めるにつれてだんだん行かなくなってしまったんです。

馬場
じゃあ良く行ったお店とか思い出深いお店はどうですか?

香瑠鼓
ないんですよね。寸暇を惜しんでレッスンしていたのでお酒を飲みにも行かなかったし・・・
高田馬場のBIGBOXくらいかな(笑)

馬場
学生時代の早くから努力なさっていたようですが、今の仕事に役立ったことってありますか?

香瑠鼓
う~ん、早稲田って学部を超えて学生間の交流はさかんだったですね。他学部の人たちとも交流して、そうやって視野を広げていけたと思います。たとえば同年代では数年前に某県知事なられた方や、ラサール石井さんたちがいました。ラサール石井さんは、当時ミュージカル研究会を主宰されていたんですが、(刺激を受けつつも)自分のカラーと合わなくて、結局自分で何かを立ち上げたいなと思うようになったんです。

馬場
もう学生時代から今のお仕事をなさろうと考えていらっしゃったんですか。就活などはされなかったんでしょうか。

香瑠鼓
就活ってしてないです。大学4年の時に『HAIR』というミュージカルで主役としてオーディションに合格したんです。そのために留年しちゃいましたけど。

韓国2

~日本人の多様性、感性に誇りを~

馬場
これまでお仕事をする上で一番大切にされてきたことってどんなことですか。

香瑠鼓
私はオリジナルにこだわってきました。日本発の世界でまだ見たこともないものが創りたかったんです。私は学生時代から日本人の感性に誇りを持っていて、大切にしたいなと思っていました。まわりの人たちはなんで外国の真似をするんだろうと・・・。

たとえば『八百万の神』とか『森羅万象』。われわれ日本人独特の全てのものに神様が宿っているという考え方や自然との共生。日本人が誇りに思っているものをフィーチャーしてパフォーマンスにしていくことがやりたいんです。

馬場
そのあたりをもう少し詳しく聞かせていただけますか。

香瑠鼓
伝統的な能の世界では、『すり足』ひとつとってみても足の重心を前にかけるのと後ろにかけるのでもぜんぜん違う感じ方になります。日本人の多様性、能面のように、泣いているような怒っているような、笑っているような感じ。たとえば恨めしいけど好きだとか、恥ずかしいけれど結構積極的っていうような割り切れない感情っていうのかな、それがすごく面白いと思います。

馬場
そういうことに関心があってそれを再現していきたいと・・・。

香瑠鼓
そうですね。再現と言うより伝統をふまえて新しいものを創りたいです。

~振付家の仕事で売れてしまいました~

馬場
今のお仕事のきっかけはどんなことだったのですか。

香瑠鼓
作詞家の森雪之丞さんが誘ってくださったバンド(Mighty Opera)に参加したのがきっかけですかね。このバンドにはラッキィ池田さんも誘いました。そうこうしているうちに石井明美さんを紹介されて、『チャ・チャ・チャ』の振り付けを担当することになり、そしてベイブというアイドルグループ、次がウインク。まずは裏方で売れてしまったんですよね(笑)

馬場
売れたということは、認められたということですよ。

香瑠鼓
そのころの自分は、オリジナルパフォーマンスにこだわっていて、世の中の流れと違っていたんですね。その当時つくったものは今でも面白いと思うんですけど、少し(時代より)早すぎて売れなかった。その頃にウインクに出会ったんです。こっちは毎日毎日努力してもなかなか売れないのに、(それほど努力していなくても)売れてしまっているアイドルがいる。なんか納得がいかない。でも気づきました。自分が良いと思っていても地球の流れというか・・・ビートに乗れていないなと思ったんです。
その頃の日本はバブル時代で、私のようにガツガツしていてはウケない。逆にウインクのようなホッとするものがウケたんでしょうね。ウインクに対しては、振り付けの意味から教えていきました。私が厳しいものだからぎこちなくなって、かえってそれが良かったりして(笑)

馬場
それだけ相性が良かったんじゃないでしょうか。

香瑠鼓
その時、一度自我をなくして流れというかビートに乗ってみたらどうかと思いました。その中でいかに自分のオリジナリティ、感性を保つかが仕事になるということがわかりました。

馬場
自我をなくすという切り方はすごいと思います。では今現在、お仕事をする上で一番大事にしていることってどんなことですか。

あぴフェスD

~ネイチャーバイブレーションメソッド~

香瑠鼓
『ネイチャーバイブレーションメソッド』というオリジナルメソッドを作ったのですが、これは「生まれつきの自分の役割を引き出す」というものなんです。自然界との共振・・・私には花や木や石や自然界の全てが歌っているように聞こえます。歌っていること自体が自由で楽しくて、それらと共振することをメソッドにできないかと。私のところに来ている重度の障害を持った方たちとも助け合え、お互いをいかすメソッド。いろんな人とのかかわりの中で一番いい答えを見つけていくというか、相手や状況などを受け取って、固定観念でない一番良い答えを出すことと言ったらよいのかな。

馬場
障害者の方たちとのかかわりについてお話していただけますか。

香瑠鼓
私の妹が足が悪く、彼女自身が障害者のボランティア活動をしていた関係もあって、私のプロデュースした公演にたくさんの学習障害の子供たちを招待したんです。ある時、私のダンスパフォーマンスを見た女の子が弟子にしてくれと言いに来ました。(その子のお母さんの話では、)彼女は生まれて初めて自分からやる気をだしてくれたんです。それがきっかけでこれまで約20年間、障害者の方たちと『あぴラッキー』というバリアフリーなエンターテイメントライブ公演を日本全国で展開してきました。昨年は、そのプロチームが韓国に行って公演をしてきました。50~60代のお客様も多かったのですが、韓国の方たちは熱気がありびっくりしました。
ネイチャーバイブレーションメソッドは、シンプルでその人によって伝え方が変わってくる。陰と陽のように対極的で(固定的な)答えのないもの、言いかえれば10人いたら10の答えがあるものなんです。このメソッドを通じていかに自分を自由に開放させるかという方法を見つけるものなんです。

馬場
私たちもこんどワークショップに参加させていただくんですけれど楽しみですね。香瑠鼓さん、これからの活動についても教えていただけますか。

香瑠鼓
東京大学の教育学部の非常勤講師としてネイチャーバイブレーションメソッドを教えることになりました。以前、うちのダンス教室に通っていた大阪の拒食症の女子学生がいたんですが、うちのレッスンに来ると食事が出来ると言って、通ってきていたんです。その生徒がその後頑張って東京大学の博士課程に進み、同じ研究室の人と私のメソッド関連の研究をしてくれています。みんなの研究に役に立つような授業ができたらいいなと思っています。
『あぴラッキー』に関しては、ドキュメンタリーフィルムを作り、海外にも広めようという話があります。いろんな国で『あぴラッキー』の公演を開催してつながれたらうれしいですね。
それからネイチャーバイブレーションメソッドを全国に広めたいので、メソッドのネット配信も考えています。これだと遠隔地の方や学校でも利用できます。

馬場
今年もいろいろな人と人のつながりの中でお仕事ができそうですね。実は私たち社会科学部稲門会のシャガールの会からもお願いがあるんです。来年2016年は学部創立50周年で、私たちも学部に協力して色々なイベントを継続的に展開していこうと思っているんです。そこで『あぴラッキー』ライブ公演を記念事業のひとつとして開催するというのはいかがでしょう。

香瑠鼓
面白そうですね。

馬場
4月に企画案をまとめるのですが、それまでに何度か相談に乗っていただけますか。

香瑠鼓
学生さんや教授とかお客さんを主役にして舞台でパフォーマンスなんか良いですね。

馬場
いいですね。現役学生、教職員の方、卒業生の三位一体で交流し盛り上げていくという稲門会の目標にも一致しますね。それでは香瑠鼓さん、最後に早稲田大学社会科学部の学生に向けてメッセージをお願いします。

香瑠鼓さんとシャガールの会2

<早稲田の後輩たちに向けて>~自分の身体の可能性を信じて自分自身に生きる力を~

香瑠鼓
私が何故即興のネイチャーバイブレーションメソッドをやっているかというと答えが無いからなんです。固定観念上の答えが無いからこそ面白いんです。答えは即興の中で自分で見つけるんです。自分で自分自身の能力を限定しないでと言いたいです。今の時代、安定的なものってもうないと思い、自分自身に生きる力をつけるということが必要だと思います。そのためにはまずひとつしかない自分の身体の可能性を信じましょう。身体は独自で絶えず良くなろうと頑張っています。身体を開き運もつかんでいきましょう。

馬場
本日は素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。またお目にかかりたいです。

プロフィール

香瑠鼓(かおるこ)さん
振付家・アーティスト

1957年東京生まれ、早稲田大学社会科学部を卒業。振付家・アーティストとして活躍中。1989年Winkの「淋しい熱帯魚」1990年B.Bクイーンズの「踊るポンポコリン」はじめ、慎吾ママの「おはロック」、新垣結衣の「ポッキー」、ダイワハウス「ベトナムにも編」、最新作EDWINのCMまで、手がけた振り付けは1000本以上。国内外のダンス公演活動とともに、これまで20年にわたり、障がいを持つ人を含めて行う「バリアフリーワークショップ」に注力。そこから開発した「ネイチャーバイブレーションメソッド」が近年注目され、東大はじめ、学校、自治体、企業などで講師やワークショップを手がける。即興アーティスト集団ApicupiA(アピキュピア)を主宰し、定期ライブ「あぴフェス」やバリアフリーライブなど多数実施。昨年韓国の「障害者文化芸術祭」にも出演した。著作に「脳とココロとカラダが変わる 瞬感動ワークショップ」(高陵社書店)。
香瑠鼓カラダラボスクールにて各種ワークショップ開講中。2015年4月~7月、東京大学にて非常勤講師。

HP:http://www.kaoruco.net/
facebook : https://www.facebook.com/KaorucoArt

香瑠鼓さんのスクールなどに関する問い合わせ
オフィスルゥ 03-3413-4139

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